「オーイ! もう帰るよ!」 鎌田大地の大きな声が、観客のいなくなった本拠地セルハースト・パークに鳴り響いた。鎌田が呼んでいたのは、サウサンプトンの菅原由勢。クリスタルパレス対サウサンプトン戦後の一コマである。 【愛され写真】「後輩とめちゃ仲良さそう…」鎌田大地と久保らの2ショット&奥さんとの仲良しショットもすべて見る この一戦で出番のなかった菅原は試合後、コンディション維持のため黙々とスプリントをこなしていた。一方の鎌田も、試合終盤の86分から途中出場。ピッチに立つ時間は短かく、二人は不完全燃焼で試合を終えた。 試合後、二人がこなしたのは、プレー時間の短い選手用のトレーニングだった。一足早く練習を終えた鎌田は、ピッチで菅原を待っていたのである。そして、冒頭の掛け声につながった。 菅原の練習が終わると、二人はユニホームを交換。コーナー付近に座り込み、しばらく話し込んだ。 鎌田大地と菅原由勢は、今シーズンから世界最高峰のプレミアリーグで戦っているが、いずれも難しい状況に置かれている。鎌田はフィジカル色の強いクリスタルパレスで出番が限られ、後半終盤に登場する試合が少なくない。対する菅原も、ちょうど指揮官がクロアチア人のイバン・ユリッチに替わったばかりのタイミングだった。チームは最下位に低迷し、菅原も先発と途中出場を繰り返している。 そんな二人が一体どんな言葉を交わしたのか。鎌田は、菅原との会話を明かした。 「基本的にチームのことを話していました。由勢は由勢で、サウサンプトンも勝ち点が取れない。自分たちも最初、勝ち点が取れなくて、今ある程度取れてきた。降格圏よりちょっと離れたところにいるという……(話していたのは)チームの難しさですかね」
「自分の良さが出せない…」鎌田の苦悩
「チームの難しさ」と漏らしたように、鎌田はクリスタルパレスで壁にぶつかっている。 日本代表MFがプレミアリーグに参戦したのは昨年7月。フランクフルト在籍時代に師弟関係にあったオリバー・グラスナー監督が、その5カ月前にクリスタルパレスの指揮官に就任した。そして、愛弟子の鎌田を呼び寄せたのである。 しかしクラブは開幕から黒星先行で、気がつけば降格圏に浸かった。するとグラスナー監督は、クリスタルパレスの本来のプレースタイルである「フィジカルサッカー」に戦術を切り替えた。ここから、チームは徐々に復調。対照的に、中盤に「柔」のエッセンスを加える鎌田の序列は低下し、ベンチを温める試合が増えた。鎌田は説明する。 「僕的にはパスをある程度つないでボールを保持できないと、自分の良さがなかなか出せない。フランクフルトは、両ウイングバックに攻撃的な選手を置いて、“攻撃的で、ボールを保持して”というチームでした。クリスタルパレスは“守備的で、基本的にはロングボール”というチーム。 開幕当初にうまくいかなかったので、後ろからパスをつなぐことをやめて、ロングボール主体のチームになってる。 監督としてはやりたいことは一緒なんでしょうけど、実際にやってることは全然違うという感じですね」 プレミアリーグの28節を消化し、鎌田の先発はここまで10試合。スタメンに名を連ねたのは約3分の1で、カップ戦でゴールを挙げているものの、国内リーグではゴール、アシストがまだない。鎌田にとって、今は試練の時である。